来 歴


臆病な警告


空はある日
高く高くとび上がって
もはや人間の手には負えなくなった
いつからか
人間とはすっかり違う方法で
ばかにゆうゆうと暮らしはじめている
だから人間の手で
青い空をもっと青い色に
塗りあげることもできないし
さびしいからといって
まっ昼間の空をすみからすみまで
赤く染めかえることも無理なのだ
今年も型どおりの冬が来て
あの底ぬけの青空は
いつもの気まぐれな雲を
両手いっぱいにかかえている
あわれなことに 人間の冬は
多すぎも少なすぎもしない未来や
絶望と同じ程度の希望を
狭い視野の裏側へ
かろうじて定着させているのだ
私の魂がかぶっている仮面と
肉体が所有している衣裳とは
どうしても等質にならない
そして私の仮面は
まちがっても
私の魂の輪廓をなぞらないから
私の心が前進を欲して
限りなく怒りに燃えているのに
私の顔はさびしげにうつむいて
貴重な私の生存の理由を
片っぱしからうち消してしまうのだ
そういう人間の旅はただ消費するだけ
生存の時間が一枚ずつはがれて行って
あっという間もなく
最後のこよみが空に舞ってしまう
もうその時になってからでは遅いのに
これはただ単に
空と人間との誤差にすぎないのだろうか
人間の生存の部分だけが
この世界から疎外されている
奇妙な仮象だと思えてならないのだけれど
 

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